こんにちは、結(ゆい)です。
突然ですが、みなさん、現在放送中のNHK朝の連続テレビ小説「ばけばけ」をご存知ですか?
明治時代の島根県松江市を舞台に、没落士族の娘・松野トキ(モデル:小泉セツ)と
外国人英語教師のヘブン(モデル:ラフカディオ・ハーン)が、日本の怪談を通じて心を通わせ、
言葉も常識も違うなかで、次第に家族となっていく過程を描いた、心温まるヒューマンドラマとなっています。
1890年、ハーンは英語教師として松江市の中学校に赴任します。
そこで、住み込み女中として雇われたのが、のちの妻となるセツでした。
当初は「雇い主と使用人」という関係で、日本語しか話せなかったセツですが
言葉の壁を超え、民話や怪談を語るなかで、強い信頼関係が生まれていったと言われています。
1880~90年代(明治20~30年代)の日本では、地方の女性が英語を学ぶ機会はほぼ皆無でした。
当時の女性教育は、裁縫や家事などの「良妻賢母」の育成が中心で
英語は、官僚や教師のための学問として、一部のエリート男性のみが学ぶものでした。
また、没落士族の娘であったセツは、実家が非常に貧しく、学校は小学校(当時の義務教育)までで
とても苦労の多い人生を歩んでいます。
けれども、家庭を守りながら、日本文化の「翻訳者」としての役割も果たした彼女は、
とても芯の強い女性だったことが分かります。
当時としてはかなり珍しい国際結婚でしたが、
夫であるハーンは、セツに流暢な英語を話すことを望んではいなかったようです。
英語教師として日本にやってきたハーンですが、本職は新聞記者で、多数の書籍を出版しています。
なかでも有名なのは、日本の怪談を再話した『怪談』(耳なし芳一、雪女などを収録)や、
日本文化の深層を描いた『知られぬ日本の面影』です。
西洋の視点で明治の日本を捉え、独自の怪奇文学として世界に日本文化を広めました。
そして、その「怪談」を教えていたのが、他でもない妻のセツです。
セツがハーンに伝えていたのは、単語や文法ではなく
怪談を語る「間」や、畏れや哀しみのニュアンスといった、日本人が持つ独特の感性でした。
英語を流暢に話せなかったことは、むしろ「日本的感性を濁さずに伝えた」要因とも言われています。
セツとハーンは、やがて3男1女の子宝に恵まれます。
特に長男である一雄は、英語が最も堪能で、実用的なバイリンガルだったようですが
妻のセツは、単語や簡単な表現は理解できるようになったものの、
最後まで英語はあまり話せなかったようです。
それでも、セツとハーンの間には「夫婦にしか通じない言語感覚」がありました。
セツはハーンの話を黙って聞き、生活を整え、安心できる空間を作りました。
多くを語らず、でも相手を理解しようとする。
そういう、言葉以外のコミュニケーションが、2人の関係の基盤だったとも言えます。
ある意味、言葉が不完全だったからこそ、
相手のことを感じて、お互いのことを思いやる夫婦になっていったのかもしれません。
言葉や言語は、あくまでもコミュニケーションツールのひとつであり
大切なのは、文法や発音ではなく「相手の伝えたいことを分かりたい」という心そのものなのだと
明治時代の夫婦が、今の私たちに教えてくれている気がします。

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